のべりんちゅ.

坂井美月と申します♪ よろしくお願いいたします♡

【ヒミツの時間】KISSの法則 第6話 ブレない心

 

彼の"ブレない"宣言に揺れる心。
もしかして、お兄ちゃんと私のヒミツに気づいてる?

 

 

【ヒミツの時間】KISSの法則 第6話 ブレない心

 

KISSの法則・京ことばの謎

 

「どうして、高橋課長は……」

……私に攻撃的なんですか? 

訊きたい、けど。訊けない。

だから。

「……京都弁、だったんですか?」

2番目の疑問を訊いてみた。

「ああ、あれ、な。

 あいつ、毎年暮れに芸子の格好して

 クライアント向けの忘年会に出るんだよ。

 舞をひとさし、あとは席を回ってお酌三昧」

……言葉が出ない。

あの、高橋課長が? 

芸子さんの格好も。

舞を披露することも。

色っぽくお酌するのも。

信じ、られない。

 

 

 

「けっこう高飛車で冷たくあしらうらしいぜ。

 京ことばも、ひとこと、ふたことだけ。

 長く喋るとやっぱ興ざめするし、笑うと化粧がよれるって」

それにな、と。

そこで間を取って、どや顔をみせる榊課長。

「冷たい方が、後の営業活動に繋がるぞって。

 この、オレが教えてやったから」

わぁ、威張ってるぅ。

「それがすげー、好評らしくてさ。

 中身が高橋だ、オトコだって。

 わかってんのに、ポーっとなるらしい」

想像、してみる。

確かに。あの顔立ちなら、すごく綺麗かも。

 

 

 

「だから、あん時。

 京ことばが出たんだよ」

……???

「もう少し、解説をお願いします」

眉間にしわを寄せて首をかしげる

「普段の営業で、もう一押しって時に。

 年に一度の京ことば、出してみ。

 クライアントはフラってなるだろ。

 日常の非日常ってヤツ。

 ま。すべて、オレが授けた策だけどな」

すごい! と。

言葉にしたら、満足そうに笑って。

 

 

 

「あいつ、あれを使えば上手くいくって身に染みてるから。

 新堂に結婚を決断させようと、咄嗟に京ことばが出たんだろ。

『麻衣争奪戦に営業も参加する』なんて

 ゆうべ言ってたけど。

 本心は、新堂と結婚したいだけ」

そうですよね。

疎ましく思う私を営業に。

そんなこと、ありえないもん。

 

 

 

「高橋は、京都の老舗呉服店の次男坊でさ。

 色々あって、屈折したんだろ。

 後継争いとか、派閥とか、な」

仲がいいんですね、と。

呟いた言葉が卑屈に聞こえて。

ちょっと焦った。

「飲むと、アイツが勝手にしゃべるだけ。

 オレはただの聞き役」

信頼されていて、ちゃんと受け止める。

すごく、いい関係。

 

 

 

「榊課長は、忘年会で何をやるんですか?」

普通に訊いたのに。

ぁあ? と、眉を上げる榊課長。

ちょっと身構えて。

「口癖ですよね」

確認するように呟いてみる。

「早く慣れろよ」

苦笑する榊課長。

「オレは不参加。

 忘年会にオレが出たって、なんも面白くねーだろ。

 飲んでも酔わねーし、冗談の一つも言えねーからな」

目に浮かぶだけに否定もせず、苦笑いを返す私。

 

 

 

そんで? と。前を向いたまま。

「麻衣はしょげてねーのか? 

 高橋の嫌味に。

 気づいてないわけじゃなさそうに見えたけど」

え? と。

思わず素っ頓狂な声が出て、慌てて口を押さえる。

ここ、電車内でした。

「榊課長こそ、気づいてたんですか?」

ぁあ? と。プチ威嚇。

あ、また……口癖。

少しだけ、慣れた……かな。

うぅ。

もうちょっと、かも。

 

 

 

「香里さんが、言ってたんです。

 榊課長は何も気づいてないって。

 ……高橋課長のいじわるも。

 ……私がショックを受けてることも」

ちらり、と。

こちらに視線を向けて。

「あいつ。オレをなんだと思ってやがる」

苦々しげに言い捨てる。

「傍に居りゃ、わかるだろ。

 特に麻衣はわかりやすいし」

むぅ、と。ふくれる私に口角を上げて。

「オレは、麻衣ばっか見てるからな」

思わず口がぽかんと開いて。

ほっぺの空気が、ぷしゅうと抜けた。

 

 

 

「それに。

 高橋は最初っからあんなヤツだ。

 オレは動じないスタンスでやってきただけ。

 動じないってのは、気づいてねーのとは違うだろ?」

そうですね、と頷く。

「高橋の営業能力はピカイチだったから。

 認めてることを暗に示して信頼してれば、

 敵じゃねーって通じるもんだ」

男の人同士って。

認め合って、わかり合えて……羨ましい。

 

 

 

「新堂こそ、オレには理解できなかったんだよな。

 あいつ、売られた喧嘩以上のもんを買い取って、

 熨斗つけて10倍返しするし。

 完膚なきまでやり合うもんだから。

 そりゃもう、目を覆うほど醜かったんだぞ」

ほんとに?

今のラブラブっぷりからは想像もできない。

失礼だけど、香里さんはなんとなくイメージできる。

でも。

あの高橋課長が、香里さんに喧嘩を売ったなんて……信じられない。

 

 

 

「オレに“冷たい”だの、“心がない”だの説教たれるけど。

 新堂は、鈍感でがさつなんだよ」

「そんなことないです」

小さく抗議する私を一瞥して、大きなため息をつく榊課長。

だって。

香里さんはミユキちゃんを1番に選んだもん。

 

 

 

「新堂はウラを読まないから……

 がーっと熱く突っ走って、一人で勝手に落ち込んでやがる。

 学習能力がねーんだろうな。

 毎回、それの繰り返し」

ウラを読まない。

それは、つまり。

香里さんがまっすぐだから。

「ウラばっかり読みすぎる高橋は、

 新堂のウラのないバカさかげんに魅かれて」

“バカ”はひどいです。

けれど、たぶん。

それはいい意味の、“バカ”で。

 

 

 

「ウラがあるオンナ達に辟易してた新堂は……

 ウラがなくて疑うことを知らない麻衣を、構いたがるってこと」

え? と。

声がもれた。

こうやって。

わかりやすくひとつひとつ、説明されれば。

もやもやが、すぅっと晴れていく。

「オレにとったら……」

眉間にしわを寄せて。

「新堂が麻衣を可愛がるのって、正直面白くねーんだけど。

 麻衣は、新堂に絶対的な信頼をよせてるし。

 鈍感と、がさつが移る」

……ちょっとだけ、悪意がこもっている点は否めない。

 

 

 

「そんで。高橋はさ。

 麻衣にもウラがあるはずだ、巧妙に隠して新堂をたぶらかしてる、って。

 疑ってんだよ」

あ。だから。

あんなに刺々しくて。

私の本音を引き出すために、突っかかってくるんだ。

つまり。

全ては、香里さんを守るため。

なんだ。そうだったんだ。

心が、ほんわかあったまる。

 

 

 

「人物相関図はそんなとこ。

 だから、麻衣は普通にしてればいい。

 そのうち自然とわかるさ。

 ほんとの麻衣が、な」

大きな掌が、そっと頭を撫でた。

あったかくて、安心できて。

甘えたく、なる。

なのに。

私の心なんて置き去りに。

「次で降りるんだな」

クールな声。

 

 

 

……ヘンだ、私。

男の人、苦手だったんじゃないっけ。

お兄ちゃんに甘えるときだって、ひっついたりしないのに。

そういえば。

ゆうべ、榊課長の胸にすりよったし。

今も、もっとくっつきたい。

ここが電車内だから、セーブしてるだけ。

すぐ“発情する”なんていじわるを言うけれど、それもびっくりするだけで。

嫌じゃない、なんて。

……やっぱり、ヘンかも。

 

 

 

駅を出て、並んで歩く。

何も言わずにつないでくれた手が嬉しくて。

「新堂は、高橋がたまに京ことば使うこと、なんも思ってねーんだよ。

 あいつ、単純だから。

 ああ、京都出身だからね、くらいなもんだ」

“単純”と言い切る香里さんに、“朴念仁”だと思われている榊課長。

二人とも、誤解していて。

もどかしいけど、その距離感がいいのかも。

 

 

 

「だから、芸子の話はオフレコ、な。

 営業内でもトップシークレットなんだよ。

 新堂に知られたくない高橋が、箝口令を敷いてる」

「だから、そーだな」と、にやりと笑って。

「それをネタにユスるってのも、ありだよな」

ユスる、なんて。物騒な。

 

 

 

「私に話してよかったんですか?」と、見上げると。

「またひとつ、“ヒミツの共有”が増えたな」

嬉しそうな笑顔から、目が離せない。

「見すぎ、襲うぞ」

過激な言葉。とは裏腹に。

目は逸らしていて。

言葉と行動が噛みあわない。

こんな時は、照れてる証拠。

 

 

 

KISSの法則・ブレない心

 

「オレは、ブレねーから」

いきなりの宣言に、見上げる。

“KISSの法則”のお手本ともいうべきシンプルさ。

そういえば、榊課長って。

すべての伝え方がシンプルで短い、かも。

「ブレねーってのを信条にして。

 仕事も、ずっとそうやってきた。

 人間関係も、な。

 高橋に対しても、新堂にも」

そこで言葉を区切って、立ち止まる。

つないだ手に力がこもって、ひきよせられた。

つないでいない手も絡めとられて、向かい合わせに。

手に手を取って見つめ合う、榊課長と私。

 

 

 

「それから。

 麻衣に対しては一生ブレないって、自信がある」

真剣な瞳、心なしか強い口調に。

はい、と。戸惑いながらも小さく返事。

だから……、と。

口にしてから少し言いよどんで。

「麻衣が抱えてるもんは、オレも一緒に背負う。

 すぐ、じゃなくてもいいから。

 困ったら……

 困らなくても、いつかちゃんと相談しろ」

 

 

 

なんの、こと?

……もし、かして。

携帯に、

仕掛けられた、

お兄ちゃんの……

頭がくらくらした。

「今はいい。

 オレはそばにいる。だから、安心しろ。

 それを伝えたかっただけだ」

 

 

 

「いいか。

 麻衣はなんも、悩むな。

 オレを信じろ。

 オレはブレねーから」

胸が痛くて、しがみつきたくて。

一歩、近よる。

なのに、榊課長はするりと躱して。

もう、なんでっ!!!

 

 

 

「これ以上は、だめだ」

……拒否。

ぴくんっと肩が揺れる。

「ここ、麻衣の地元だろ? 

 ご近所とか。

 それこそ、にいちゃんに見られたら……

 麻衣が困る」

この体勢も充分まずいな、と。

慌てたように、ぱっと手を離した。

「麻衣を困らせたくない。

 オレが悩ませたんじゃ、意味がねーから。

 守りたいんだよ。

 にこにこ無邪気に笑う麻衣を」

榊課長の気持ちは嬉しいけれど……

今は、この距離がもどかしい。

 

 

 

「オレはブレねーけど」

榊課長はトーンを下げて。

「心配なのは、麻衣だ。

 オレは、まぁ……

 詳しくは言わねーけど、それなりにいろいろあって。

 その上で、麻衣だけしか見えないって断言できる」

いろいろあって、に。軋むような痛み。

断言できる、に。とくんと跳ねて。

ジェットコースターみたいなアップダウン。

心臓が、もちません。

 

 

 

「……でも、麻衣は。

 オレが初めてで。

 較べるもんはこれから出てくるかもしんねーから」

くしゃっと掴む前髪から、不安げに揺れる瞳が覗く。

どうして?

そんな顔、するんですか?

「たまたまオレだっただけで……

 麻衣は、まだ相応しいオトコに出会ってないだけかもしれない」

 

 

 

……つまり、と。

苦しそうに呟いて。

「他のオトコのとこに行く可能性も、あるってこと」

「違いますっ」

かぶせ気味にちょっと大きめの声が出た。

ここ。家の前、近所迷惑。

「確かに、私は。

男の人と接したことが、ほとんどないけど……

榊課長は違うってわかるんです」

だって。

甘えたい。

そばにいたい。

ぎゅうってしてほしい。

言葉には出せないけれど。