のべりんちゅ.

坂井美月と申します♪ よろしくお願いいたします♡

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第40話 初めての……

 

二人の"初めての共同作業"は緊張。
だけど、認められたい!

 

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第40話 初めての……

 

KISSの法則・初めての共同作業?

 

「なんだよ、もう仲直りか~。

 もうちょっと楽しめると思ったのに」

口をとがらせる高橋課長。

「そういえばさ。

 来週の金曜日だよね、社内デモンストレーション。

 対象は企画部だけ?」

興味がなくなったのか、高橋課長は話を変えて。

「企画全員と、フォロー担当の営業、あと新堂も」

榊課長の説明に「ふぅ~ん」と高橋課長は頷く。

「チーム編成は、僕、榊、麻衣ちゃんの3人?」

ああ、と頷く榊課長。

「今後はずっと。

 企画3課のチームは、この3人が固定メンバーだ」

榊課長ってば、きっぱり言い切っちゃってる。

いいの? 

私が使い物になるかどうかなんて、まだわからないのに。

 

 

 

「……て、ことはさ」

高橋課長は楽しそうな笑顔で、ウインク。

「僕はフォロー担当なだけに、神父さん的な役割だよね」

頭の中に“?”がたくさん舞い踊る。

「つまり、来週金曜日の社内デモンストレーションは……

 榊と麻衣ちゃんの“初めての共同作業”ってやつだ」

榊課長と二人、顔を見合わせて。

真っ赤になった。

 

 

 

KISSの法則・アメとムチ

 

社内デモンストレーションまで、寸暇を惜しんで練習。

榊課長は、仕事に厳しい。

わかってはいたけれど、タイミングの寸分の狂いも見逃さずにチェック。

自分でも【タイミングが命】ってわかっているから、悔しくて。

「立花っ!」って言われるたびに、情けなくなる。

ビデオを何度も見直して、体に覚えこませようとするけれど……

クリックのタイミングが掴めない。

クリックとプロジェクタの反応の間には、微妙なタイムロスが生じて。

画像が変わるタイミングじゃ遅すぎる、と。

木曜日の夜、気づいた。

タイムロスを考慮して、ワンテンポ早目にクリックを心掛ければ改善できそう。

 

 

 

翌日。

1週間前の金曜日には、クリックの問題は、ほぼ解消。

榊課長は、褒めてくれたけれど……

ここからがほんとの正念場で。

プロジェクタを操作しながら、お客様の反応を見る。

そして、それを記入する。

思った以上に難しい。

どのタイミングで確認、記入するかを話し合って。

何度も、繰り返し練習して。

高橋課長にも立ち会ってもらいながら。

やっと納得がいく出来に近づいたのは、前々日の水曜日。

 

 

 

KISSの法則・甘いノルマ

 

もう、心身ともに、くたくたで。

今日の充電はパスしたいのに、許してくれない。

「パスしても送っていくけどさ。

 この調子じゃ、目の前でなんか食べさせないと心配なんだよ」

んー、確かに。

このまま家に帰っても、ベッドに倒れこんじゃいそうで。

「とりあえず店に行こうぜ。

 オレによりかかって、ウトウトしてていいから。

 リゾットなら食えるだろ?

 オレが冷まして、“あーん”ってしてやるから」

タクシーの中で仮眠を取ったら、お店に着いた頃には元気になって。

“あーん”されなくてすんだ。

榊課長は残念そうな顔をしていたけれど。

そのうっぷんを晴らすかのような、濃厚な充電。

手加減は一切なし。

 

 

 

もう! って。

睨んでるのに、涼しい顔で注文をつけられた。

「そろそろ、名前で呼んでよ」

あ。そうだ。

ご家族に会わせてくれるって。

弟さんを名前で呼ぶなら、榊課長じゃおかしいもん。

さん、はい、と。

音楽の先生みたいにタクトを振る真似。

「た。

 たく、ま……さん」

 

 

 

ぎろっ、て睨んで。ちっ、と舌打ち。

「ぎこちないな。

 前は、もっとちゃんと言えてたぞ。

 いいな。

 今日から寝る前に練習して」

「はーい」と返事をしたら。

「携帯電話に向かって言うんだぞ。

 “おやすみなさい、拓真さん♡”って。

 大丈夫。

 毎晩、練習に付き合ってやるから」

それって……。

“おやすみなさい”の電話をしろ、っていう意味ですよね。

「オレって優しいだろ?」

まぁ、そうとも言うのかも。

 

 

 

KISSの法則・充電、完了

 

木曜日は仕上げのみ。

榊課長からも、目いっぱい褒められて。

褒められて伸びるコって、思われてるんだろうな……

残業せずに帰って。

ゆっくりお風呂。

ぐっすり眠って。

そして迎えた、金曜日当日。

会場は大会議室だけど、何度か練習していたし。

ただ、心配なのは……

がらんとしていたリハーサルとは違って、今日はたくさんの社員がいること。

「立花さん、ちょっといいですか?」

開始15分前。

榊課長に呼ばれた。

場所はあの“例の小会議室”。

 

 

 

「緊張、してるだろ?」

いつも通り、扉はちゃんと開けたまま。

足を踏み入れた瞬間、訊かれて。

もう。

いくら社内のデモンストレーションはいえ、大事なプレゼン前にそれは禁句でしょ?

「オレは緊張してる」

え? うそ。

全然そんな風に見えない。

というより。

いつもより堂々としてる気が。

だってほら。

大きな歩幅で、私の前を悠々と通り過ぎていくその姿、ったら……

って。

どこ、行くんですか。

ぽかんと見つめていたら、小会議室の扉を閉めて。

扉を背に、爽やかな笑顔。

 

 

 

「大丈夫。麻衣は頑張った。

 オレとの息もぴったりだ。

 絶対うまくいく。うまくいかないわけがない。

 オレが、保証する」

そう言って、両手を広げる榊課長。

……感極まって。

気づいたら、腕の中に飛び込んでいた。

「タイミングは完璧だ。

 だけど今日は聴衆がわんさかいる。

 ムリにメモしようとするな。そっちは二の次だ。

 今日は、雰囲気を掴めさえすれば上出来だから。

 いいな?」

「はい」と胸の中で何度も頷いた。

不思議。緊張がほぐれて、なにも怖くなくなっている。

「充電、完了。

 よし、じゃあ。初めての共同作業ってヤツ、行って来ようぜ」

 

 

 

KISSの法則・神がかり的なフォロー術

 

最大150人が収容できる大会議室は、ほぼ満員で。

「高橋……。予想より多くないか?」

榊課長は、マイクテストをしていた高橋課長に訊く。

ん~? と。

高橋課長は、生返事で視線を泳がせて。

……怪しい。

「営業部は、フォロー担当者だけのはずだったんだけど……

 気づいたらほぼ全員にふくれあがってて。

 ま~さ。

 『高橋課長の神がかり的なフォロー術を会得したい』って。

 みんながあんまり泣きつくもんだからさ」

「嘘つけ!」

間髪入れずに榊課長が遮った。

予想外の人数に圧倒される。

会場は、ざわめいていて。

企画も営業も制服ではなく、みんなお洒落なスーツ姿。

特に女性は綺麗で大人っぽくて華やかで。

たったひとり制服姿の私は、それだけで怖気づく。

 

 

 

しかも、なぜかお姉さま方からじろじろ見られているような……

高橋課長は、にやりと笑って。

ロータスさまの噂は、みんな知ってるからね。

 あ~んな“ちんちくりん”が婚約者? みたいな感じでしょ」

“ちんちくりん”って。

ひどいですよ、高橋課長。

むくれながら、プロジェクタの最終動作確認。

ぷりぷりしてたら、視線も気にならなくなってきた。

もしや、これもフォローの一環?

恐るべし。神がかり的なフォロー術。

 

 

 

KISSの法則・カリスマ鬼、降臨

 

一瞬、会場が静かになる。

ピンと張りつめた空気。

どうしたんだろう?

不安になって顔を上げたら、視線の先にいたのは香里さん。

この会場の中に、私と同じ制服姿。

ざわざわ、にやにやしていた男性社員はピンと背筋を伸ばして。

逆に女性社員は、嬉しそうに香里さんに声を掛ける。

あ。そうだ。

お姉さま方は、ほとんどがシンジョ出身で。

元を辿れば、私と同じ制服を着ていた先輩。

にこやかに女子社員に手を振りながら、香里さんは真っ直ぐこちらへ。

そして、私の手をぎゅっと握ってそっと囁く。

「麻衣。麻衣なら大丈夫だから」

だめだめ、涙腺が緩んじゃう。

 

 

 

本番前にうるうるする私に、驚いたのか。

香里さんってば、急に口調が変わって。

「でもな、麻衣。

 いやになったら、いつでも実家に帰って来な。

 あんな亭主に尽くすなんて、麻衣が不憫でならねぇ」

え? あ。なんの小芝居ですか。

「お。おとっつぁん? 的な……?」

なに。この多種多様な緊張のほぐし方。

でも。

榊課長、高橋課長、香里さん。

3人がそれぞれのやり方で、私を気にかけてくれること。

嬉しくて、ありがたくて。

心がじんわり温まる。

 

 

 

KISSの法則・デモンストレーション本番

 

「はい。では静粛に。

 皆さんお席についてください」

高橋課長がマイク越しに呼び掛ける。

香里さんが私に親しげに接してくれたおかげで。

男性社員は、“鬼のシンジョ”登場にピリッとして。

女性社員は、温かな視線に変わった。

「本日は、クールイベントの社内デモンストレーションに、ようこそおいでいただきました。

 昨年、見切り発車ながら概ね(おおむね)好評価をいただき、今年はたくさんの問い合わせをいただいております。

 本日はただの見学ではありません。

 各々がお客様のオファーに責任を持って対応できるよう、きっちりポイントを押さえてください」

フォロー役の高橋課長は、口調こそやわらかいものの。

遊びじゃないぞ、と。暗に脅しているようで。

 

 

 

「では、始めます」

榊課長が口を開いた途端、会場全体が息をのんで耳を澄ませる。

百戦錬磨、企画の榊。

噂のプレゼンを聞けるなんて……! 

という昂揚感。

もちろん榊課長はそんな空気に飲み込まれることなく、流れるような説明。

そして、私も。

榊課長の声に酔うように、滑らかな動きで的確にクリック。

手が、耳が、心が、すべて覚えていて。

目を瞑っていても、大丈夫なくらい。

 

 

 

榊課長は“二の次だ”と言っていたけれど。

気をよくして、記録にも挑戦してみた。

レクチャー中に編み出した、秘技“左手にマウス、右手にペン”を使って。

あらかじめ作った会場内の見取り図に、記号を書き込んでいく。

頷く人、メモを取る人、榊課長を見ている人、スクリーンを食い入るように見る人。

パソコンを持ち込んで入力している人。

スマホで撮影する人も。

記入はひとりひとりではなく、部署によって席が決まっているので大まかにブロック分け。

企画部は、榊課長。

営業部男性は、高橋課長。

営業部女性は、スクリーン。

それぞれの目的がはっきりしているから、視点が違っていて。

今回は社員だけれど、お客様相手だとこうはいかない。

どのクライアントが、どこに、どれだけ興味を持ったか。

どこで首をかしげ、どんなフォローが必要か。

ある一定以上の精度での記録が求められるから。

 

 

KISSの法則・目を瞠るクロージング

プレゼンは順調に終わり、質疑応答へ。

フォロー役の高橋課長が司会者となり、プレゼン側とクライアント側の仲介となる。

質疑応答は録音しているものの、内容をメモするのも私の役目で。

質問は、榊課長に向けたもの。

きびきび答える横顔に、ちょっとドキドキしたりして。

「では最後に。

 プレゼン側よりひとことずつ今回の感想を」

高橋課長の言葉に、心臓が飛び上がった。

ほっとして、気が緩んで、榊課長に見惚れちゃってたのに。

どうしよう、緊張する。

 

 

 

「では、榊課長から」

指名された榊課長は、高橋課長をぎろっと睨んで小さく息を吐く。

「今日のプレゼンは、あくまでも社内のデモンストレーションであり、参考でしかありません。

 それぞれ3人体制でこのようなチームを組むことと思いますが、結束の強さがモノをいいます。

 互いにバックアップしつつ、そのチームのカラーも出してプレゼンに臨んでください」

厳しい表情で、榊課長は一気に言い切って。

あっという間に、終わっちゃった。

「はい。では立花さん、どうぞ」

にっこり笑顔の高橋課長。

こわばった頬をちょっとほぐして、小さく深呼吸。

 

 

 

「プロジェクタ操作と記録係を務めました立花です。

 今日が初めての大役で、まだまだ改善の余地があることを痛感いたしました。

 このような場を設けてくださったこと、社員の皆様にご覧いただけたことに感謝しています。

 自分では気づくことのできない至らない点が、たくさんあるかと思います。

 どんな些細なことでも結構ですので、ぜひ、お手元のアンケートでご指摘ください。

 本日はありがとうございました」

ぺこりとお辞儀をして顔をあげたら、温かい拍手に包まれた。

榊課長も微笑んでくれて。

やっと、緊張がほどけた。

 

 

 

KISSの法則・ふたりからの贈り物

 

「え~、ここで補足です」

高橋課長が会場に呼び掛ける。

「プレゼンを始める前に言うと、本人が緊張してしまうかと思いまして最後に持ってきましたが。

 現在シンジョ所属の立花さんが、企画3課の榊チームに参加というのは異例の大抜擢で……驚かれた方も多数いらっしゃるかと思います」

私、の話だ。

社員の方々の視線が私に集まって、どうしたらいいかわからなくなる。

「課長以上の役職者は周知の事実ですが、立花さんはこのクールイベントの発案者です。

 昨年の入社間もない頃に、榊課長の依頼を初めてクリアした実力の持ち主で。

 企画書のテンプレ集を依頼された際に、クールイベントと銘打って提出したものが採用されました。

 結果は、みなさんご存知の通りです」

ほぉ、と。感嘆のため息が波のように起こって。

 

 

 

これは……私に対するフォロー。

企画3課のチーム参加といえば、誰もが羨む大抜擢で。

どうして? という疑問が湧いてくるのも当然のこと。

【企画部・営業部の先輩女性社員を差し置いて……。

 制服着用の“ちんちくりん”が、どうして榊チームの一員なのか?】って。

そんな疑問に対する完璧すぎるフォロー。

ようやく気づいた。

香里さんが大会議室に来てくれた時の雰囲気。

ぎりぎりにやってきて、みんなの前で私に親しく微笑んでくれたこと。

企画部、営業部のほとんどを集めて、その中で高橋課長が大抜擢の理由を話す意味。

すべては、榊チームの一員として認知してもらうための布石で。

泣きそうなくらい温かい拍手の中。

驚いた顔の榊課長と、顔を見合わせる。

これは、香里さんと高橋課長からの贈り物。