のべりんちゅ.

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【ヒミツの時間】KISSの法則 第3.5話 最強のラスボス

 

麻衣の兄、立花伊織のトラップとは?

 

 

【ヒミツの時間】KISSの法則 第3.5話 最強のラスボス

 

「……榊、麻衣兄(まいあに)は強敵だよ」

 

「香里なんて、ざこキャラ。

きっと、最強のラスボスだよ」

 

メアド交換のため、高橋が手にした麻衣の携帯電話。

なんと、契約時暗証番号(←単に麻衣の誕生日)の解読に成功したらしい。

高橋を絶句させた、麻衣兄“立花伊織”のトラップとは?

 

 

 

榊課長の矜持

 

麻衣と付き合い始めた翌日。

メアド交換のために麻衣の携帯をいじっていた高橋が、不意に息をのんだ。

尋常じゃない表情。

「……榊、麻衣兄は強敵だよ」

そう搾り出すと、押し黙った。

……なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言え。

「あ。もう、こんな時間。

 麻衣、戻るわよ」

気を遣った新堂が、麻衣を連れ出す。

「どういう意味だ?」

麻衣の背中を見送った視線のまま、高橋に訊いた。

「麻衣兄は、相当、妹に執着してる」

執着? にいちゃんが麻衣に?

「居場所チェック、だけじゃないって意味か」

大げさなため息をついて、頷く高橋。

 

 

 

「受信メールが、すべて転送処理されてる。

 今のところ、“伊織”と“お母さん”のメールだけ、だけどね」

転送。……つまり。

受信メールが筒抜けってことか。

「驚かないの?」

あ? 驚いてる、けど。

ああ……。そういえば、と。

思い当たる節があった。

ゆうべ、会社が社内メールを監視していると告げたのに、麻衣はさほど衝撃を受けていなかった。

そうですか、と。従順に受け容れていたっけ。

監視されている立場なら、“ひどい!”とか、“プライバシーの侵害”とか、“横暴”とか。

会社のメールシステムを、業務のために貸与されているというのに、勝手なことを言うはず。

あの、諦めに似た素直さが、彼女の日常だとしたら。

 

 

 

「今なら引き返せるんじゃない?」

……引き返せるわけないだろ。

「あんなコ、探せばごろごろ見つかるでしょ?」

……見つかるかよっ! 

麻衣に似てればいいんじゃない。

麻衣じゃなきゃ、ダメなんだよ。

「面倒に巻き込まれるだけだって。

 止めときなよ」

こいつ、しつこい。

危惧した通りか。

麻衣に敵対心、いや猜疑心を持っている。

持つのは構わない。主観の自由だからな。

でも、それを隠そうとも取り繕うともせずに、切っ先を向けるのが問題だ。

相手はあの麻衣だ。

恐らく……自分を責めるだろう。

 

 

 

「こっちが転送に気づいたことはさ。

 にいちゃんには、ばれないんだろ?」

「ま~ね」と怪訝そうに頷く高橋。

「じゃあ、こっちに分があるな」

「はぁ?」

高橋は眉を寄せた。

「知られても構わない情報だけをメールすれば問題ない。

 いや、逆手に取れるな。

 知られたい情報だけに淘汰すれば、情報操作できるだろ?」

「どんだけポジティブな策士なんだよ」

呆れ果てたようにため息をつく高橋。

 

 

 

「僕、あのコは気に入らない」

あのコ……ね。

“麻衣ちゃん”とも、呼びたくないってことか。

「知ってる」

目を逸らさずに、低く答える。

「へ~。怒んないんだ」

意外そうに目を見開いて。

狼狽えた視線のまま、口角だけ気丈に持ち上げる、高橋。

歪んだ気持ちに気づき始めた、証。

「お前は、オレじゃないし。

 高橋の気持ちを変える気も、義理もないからな。

 オレが麻衣を気に入ってるんだから、別に構わない」

ふ~ん、と。面白くなさそうに拗ねる高橋。

 

 

 

「ただ、さ。

 新堂はつらいだろうな。

 なにしろ、お前と未来永劫添い遂げる覚悟があるらしいから」

がっ、と顔を上げる高橋。

さっきまでの僻みや妬みに満ちた表情が、一変して晴れやかに。

「結婚して子供が生まれて。

 新堂が子供中心になったとき、

 お前、また気に入らないとか言うつもりかよ?」

「それとは……別だよ」

俯く高橋。

別じゃない。根っこは同じだ。

 

 

 

「麻衣はいいさ。高橋とは関係ない。

 でも子供は違うぞ?」

酷かもしれないが、持ち上げて、追いつめる。

「高橋は、ガキなんだよ。

 要は、新堂を取られたくないだけだ」

だけどな、と。諭すように肩に手を置く。

「新堂を信じろ。

 お前みたいな面倒なオトコと正面から向き合って、

 未来永劫を願うなんて並みのオンナじゃねーぜ」

「……信じ、てるよ」

切れ切れの声が小さくて。

今日はここまでにしといてやるか、と。

攻撃の手を一旦緩めることにした。

 

 

 

「新堂が麻衣を可愛がる理由は考えたのか?」

追いつめたら、考えさせる。

「香里はまっすぐすぎて、騙されやすいんだよ。

 何度もシンジョの泣き落としに引っかかって、面倒を背負いこんで。

 その度に傷ついてさ」

そうかぁ? 

傷ついてたのか、あれが。

ぎゃんぎゃん吠えてるだけだと思ってた。

「もしも。あのコがほんとに。

 榊や香里が言う通りのピュアなコだったとしたら。

 僕は、そう育てた麻衣兄の方に興味があるけど」

「にいちゃんが育てたわけじゃないだろ」

呆れて笑うと。

 

 

 

「いや、麻衣兄の影響だね、あれは。

 麻衣兄はきっと、かなり年上だよ」

ぁあ? と。声が出る。

これ、言う度に麻衣がぴくっと反応すんだよな。

面白いような、じれったいような。

「麻衣は21だぞ。

 にいちゃん、つってもオレらよりは下だろ?」

「短絡的だね。榊はさ」

高橋は人差し指を左右に振って。

「逆に、あのコに近い年齢だったら異常愛だよ」

異常、愛? 

いや、冷静になれ。

挑発に乗るな。

 

 

 

「僕が察するに。

 年の離れた妹を溺愛してて。

 心配のあまり過干渉ってとこじゃないの?」

そう、なのか? 

確かに。

そう言われれば、そんな気も。

いや、でも。

憶測に頼るのは、往々にして危険を孕むもの。

近い未来に会うのだから。

五感で得た情報のみを、オレは信じる。

「とにかくさ。

 誘惑だらけの現代で普通に育ったんなら、あんなふうにならないよ。

 あれが本物なら、だけどね」

吐き捨てるように口にした高橋は、含み笑いを浮かべてブースを出て行った。