【ヒミツの時間】KISSの法則 第21.5話 華麗なる共謀
KISSの法則・高橋司の胸の内
ウブなふりして香里に取り入るあのコ……立花麻衣。
榊も香里もすっかりあのコに気を許しているようだけど、僕はそうはいかないぞ。
榊はともかく、香里は僕が守らなくちゃ。
月曜日、朝。
榊が僕に掛けた第一声は。
「高橋。午前中外回りあるか?」
一拍おいて「ないよ」と告げる。
知ってるくせに。
月曜午前は営業先も忙しくて、成果がないこと。
「じゃ、定例の企画3課の会議な。
今日は重要だから」
僕と香里、榊とあのコの定例会議。
土曜日に麻衣兄に会ったという榊の目は、ハンターみたいに鋭くて。
正直、ヤバいなって思った。
“先を越されて結婚か?”っていう焦りを、“見当違いかも”って宥めたのは。
榊が浴びせる質問が、思ってたものとは掛け離れていたから。
「新堂のシンジョ課長としての評価は?」
「新堂の仕事上、結婚するならいつが最適だ?」
どうやら、援護射撃に回ってくれるらしい。
榊がこちらについてくれるなら、勝てるけど。
珍しいな。助言はあっても、加担はしないのに。
あのコの影響?
なんか裏があるとか。
ま、なんにせよ。
結婚に前進できるなら、乗っかってみるのもアリだよね。
香里の仕事の評価なら、僕に任せろとばかりに。
ガンガン、力説してやった。
香里の功績、トップの評価、巷(ちまた)に流れる噂レベルの戯れ言まで。
思った通り、会議の内容は香里に結婚を促すもので。
いや。促す、なんて甘いもんじゃなかったな。
巧みな誘導。
危機感を煽って。
翻弄して、焦らせて、脅された。
「わ、私、戻らなくちゃ。
あの……失礼しますっ!」
急にオロオロしだす立花麻衣。
「おい、待てよっ!!!」
あのコの様子に狼狽える榊。
ああ、そうか。反応したのはあの言葉だ。
そう。【秘書課】に違いない。
見つけちゃった。
榊とあのコのウイークポイント。
そうだ……
ちょっとしたテストを敢行しちゃおうか。
まずは、「麻衣ちゃん」って呼んでみよう。
今日の会議で完全に気を許したよ、っていう前フリ。
香里も、榊も、そして当のあのコも安心して気が緩むハズ。
香里を騙すのは心苦しいけれど。
敵を欺くにはまず味方から、ってね。
そして……さっそく共謀の相手に取り入らなくちゃ。
忙しくなりそうだ。