のべりんちゅ.

坂井美月と申します♪ よろしくお願いいたします♡

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第35話 ジンさんの贈り物

 

 

「麻衣と出会って初めて。
"大切"とか"離したくない"とかっていう気持ちがわかった」
カレの言葉に心がとろける

 

mechacomic.jp

 

 

 

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第35話 ジンさんの贈り物

 

KISSの法則・ユウさんのヒミツ

 

ジンさんはひとつ、咳払いをして。

「ユウはね、ひとりの女性を一途に愛する“男性”なんだよ。

 なにしろ、その愛する女性の名前を源氏名にして……

 ゲイバーのママとして生きているくらいだから。

 男性として生きる道を、封じ込めてるんだろ?」

「うあ?

 ……うん。まあ、そうね」

なんだか歯切れの悪い返事。

「美桜(みお)以外の女性と歩む道を拒絶して。

 一生、美桜だけに愛を誓う覚悟でね」

美桜。それがユウさんの源氏名

そして、ユウさんが愛する女性の名前。

綺麗な、名前。

 

 

 

「ただね」

呆れた声で続けるジンさん。

「ひゃぁぁ」

かすかな声を上げたユウさんは小さくなって。

まるで、この後のお小言を知っているみたいに。

「潔くはないんだよね。

 男性として生きる道を完全に捨ててはいない。

 女々しくも、戻れる道を残してる。

 退路を断たないところが、未練がましいんだよ」

身体にメスを入れていない、から?

だけど、それは。

いつか、美桜さんに想いが届くことを願って。

それって。

女々しくないと思うけど。

「ジンさ~ん。もう、勘弁して」

ちょっとだけ、ユウさんの声が低くなる。

男の人モードっぽい。

 

 

 

KISSの法則・榊課長の懺悔

 

「伊織さんは誰かを愛する前に、ひどい目に遭って心を閉ざしてしまったけれど。

 基本的にはユウと同じ。

 妥協できない。

 愛する人が見つかれば全力で向かうし、そうでなければ愛なんて要らない」

オール・オア・ナッシング……

100か、0か。

確かに。お兄ちゃんってそういうとこ、ある。

「つまりね。麻衣ちゃん。

 多くの男性は、好きでもない相手とでも、身体を重ねることができるってこと」

はいっ? 私、ですか? 

矛先はユウさんだったはず、なのに。

 

 

 

「あのね。麻衣ちゃん。

 男の人ってそういうサガなの。

 好きじゃなくても、つきあえる」

ぽかんとする私に、眉を下げるユウさん。

ピンとこない私に困ってるみたいで、申し訳なくなる。

「ん~、と。だからね。

 榊さんの過去に“もやっ”とすることはあるだろうけど、榊さんを責めないでってこと」

ああ、それで。

だから、さっき。気まずそうだったんだ。

榊課長は、真っ直ぐ身体を私に向けて。

「その。ごめん。

 麻衣と出会う前のことだから、謝るってのもヘンだけど。

 実際、そうだった。

 好奇心とか興味とか、そんなんで。

 相手には失礼だったと思う……」

そこが、お兄ちゃんと、ユウさんとは違うところ。

 

 

 

「麻衣と出会って、初めて。

 そういう、“大切”とか“会いたい”とか“離したくない”っていう切ない気持ちがわかった」

きゅうん、と。胸の奥から響く音。

だから、と。

榊課長は両手で、私の両手を包んで。

「どうにも変えられない過去に、不安を感じないでほしい。

 もちろん、今と未来に不安を感じさせるようなことはしない。

 それは絶対に誓うから」

はい、と。大きく深く頷く。

「不安は晴れた?」

にっこり笑うユウさん。

「私の源氏名の件はともかくとして……

 今の、一連の流れね。

 ジンさんからのプレゼントよ。

 ね? ジンさん」

驚いて、ジンさんに視線を移す。

 

 

 

KISSの法則・見えるチカラ

 

「麻衣ちゃんの心に、小さな不安が燻っていたからね。

 きちんと消さないと、後々何かのきっかけで再燃するんだ。

 いいかい。

 今日胸に響いた、榊さんの言葉を忘れないで」

はい、と。

背筋を伸ばして、返事をした。

ん。素直ね、と。

ユウさんは微笑んで。

「麻衣ちゃん。

 榊さんはね、イオの決意を見越したうえで、麻衣ちゃんに手を出さないの。

 そうしたら、イオの死期が早まることを懸念して。

 並みのオトコじゃできないことよ。

 それだけ深いのよ、愛が」

 

 

 

「そう、そこが……」

ジンさんが口を開く。

「榊さんの素晴らしいところなんだよ。

 冷静に先を読む力。

 自分を程よく律して、心を遊ばせる余裕もある。

 なにより。

 手の届くところにいても、揺るがない強い決意がね。

 その点、ユウは……」

はぁ、と。

ジンさんはちらりとユウさんを見て、大げさなため息。

「え? また私?

 なんなの、今日は。ずいぶん絡むじゃない」

ジンさんを軽く睨んで、むくれるユウさん。

 

 

 

「ユウ。

 どうして全寮制の私立中学に転校したんだっけ?」

ウインクを返しながら涼しい顔で飄々と訊く、ジンさん。

「それはっ……!

 その。知ってるでしょ。

 前にも白状して、懺悔したじゃない」

白状、懺悔。

転校が、悪いこと?

「忘れちゃったよ。

 っていうのは嘘だけど……

 麻衣ちゃんと榊さんに、少しだけ関係ありそうなんだ。

 それから、ユウにとって大切な“いい知らせ”がある」

ほんと? と。

ぱっと上げたユウさんの顔は、輝いていて。

 

 

 

それでも。

理由を話すときには、ユウさんの口調は重くなって。

ちらちらと、ジンさんの顔色を窺っている。

「……あのね。

 美桜だけに、ずっと恋をしてたの。

 大きくなるにつれて、どんどん、綺麗になっていって。

 幼なじみだからって、あんまり無防備すぎて。

 怖くなったの……

 そばに、いるのが」

目を瞑って聞いているジンさんを確認して。

また、おずおずと口を開くユウさん。

 

 

 

「中学生になるちょっと前くらいから、かな。

 美桜に対して、ぎらぎらしちゃう自分を持て余していたの。

 好き、仲良しでいたい、お嫁さんになってね、みたいな。

 それまで持っていた無邪気な想いが、ね。

 他のオトコに見せたくない、さわりたい、手に入れたい……って

 変わっていって。

 だんだん、邪(よこしま)な気持ちが抑えられなくなって」

ふん、と。

不機嫌そうに鼻を鳴らすジンさん。

ユウさんはびくりと肩をふるわせて。

「ごめんなさいっ、ごめんなさいっ」

頭を抱えて、平謝り。

さっきも白状、懺悔なんて言ってたし。

どうして。そんなにびくびくして、謝るんだろう?

 

 

 

「美桜はね、僕の娘なんだよ。

 認知はしているものの、僕の勝手な事情で、美桜の母親とは結婚しなかった。

 だから、父親づらなんてできないけど。

 それでも。何度聞いても腹が立つ」

「じゃあ、言わせないでよっ!」

真っ赤になって、ぷりぷり怒るユウさん。

「美桜を傷つけるのが怖くて、離れたの。

 まだ精神的に幼稚だったから……

 湧き上がる衝動の逸らし方も、わからないし。

 欲求の暴走も、制御できなくて。

 そんな時、美桜がそばにいたら絶対やばいでしょ?

 だから、物理的に距離を置くしか方法がなかったの」

愛しているから、欲しくて。

でも、お互いに同じ気持ちでなければ、愛する人を傷つけるだけ。

だから、涙をのんで、愛する人と離れる道を選んだ。

……深くて哀しくてもどかしい、愛。

 

 

 

「娘をそんな目で見られてたことは、正直ムカつくけれど……。

 ユウの転校は、愛ゆえの英断だと思うよ」

ジンさんは天を仰いで、大きな息をつく。

「僕には真似できない。

 ほんとはね。ユウを非難なんてできないんだ。

 僕は……

 もっと卑劣なことを企んで、失敗に終わって、妥協した男だから」

つらそうな、声。

「榊さんが強引に麻衣ちゃんを手に入れようとしないのはね。

 もちろん、伊織さんのことが大きいけれど。

 それ以上に、麻衣ちゃんが同じ気持ちだからだよ。

 お互いに大切に想って。

 同じ未来を目指している。

 僕もユウも片恋だったから、発想が過激になったんだろうね」

厳しい瞳をふっと緩め、ジンさんは淋しそうに微笑んだ。

 

 

 

「それで?」

ジンさんは、榊課長と私に穏やかな笑顔を見せて。

「どうして、双子が気になるんだい?」

顔を見合わせて、絶句。

榊課長の双子の弟さん。

そのことは、気にはなっていたけれど……心の奥にあるだけで。

話題に上っていたわけでもないのに。

どうして、そんなことまで。

「種明かしをするとね」

ジンさんは愉しそうな笑顔で。

「双子っていうキーワードがちらりと見えただけ。

 誰が双子で、それが何を意味するのか、は……

 見当もつかないんだ。

 僕の能力なんて、そんなものなんだよ」

 

 

 

「僕には娘が二人いてね。

 ユウが愛し続けている美桜は、双子の妹で。

 もう一人、美羽(みう)という姉がいるんだ。

 双子が気になるなら、話してごらん?」

優しい問いかけに、固くなっていた心がほぐれて。

口を開きかけたら……

ちょっと! と。鋭い声。

「麻衣ちゃんたちに関係ある話って、双子のこと?」

腕を組んでむくれるユウさん。

ああ、そうだよ、と。

ジンさんは平然と頷いて。

「双子と、転校の話って、全然関係ないじゃないっ!」

「ああ、そういえばそうだね」

あっさり非を認めるジンさん。

「まぁいいじゃないか。

 怒るとしわがふえるよ、ユウ」

 

 

 

KISSの法則・ユウさんへの吉報

 

「私にとって大切な“いい知らせ”っていうのは?

 あれもでまかせ?」

ぷりぷり怒ってもキュートなユウさん。

「いや、それはほんとだよ」

ジンさんは悠然と答える。

「じゃあ、今聞く。

 教えてよ」

「舞い上がりそうで怖いな……」

ジンさんは低く呟いて。

「ごめんね麻衣ちゃん。ユウが我儘で。

 ちゃんとユウには答えさせるから、ちょっと待ってて」

食い下がるユウさんと、余裕のジンさん。

苦笑いを浮かべながら、頷く。

「美桜が日本に帰ってくるってさ。

 フランスに行ってから2年が経つけど、これからは日本を拠点にするらしい」

頬をぽわんと上気させて、身を乗り出すユウさん。

 

 

 

「私のこと、なんか言ってた?」

そうだな、とジンさんはちょっと言いよどんで。

「ユウくんは今何してるの? って。

 今まで、ユウのことを訊ねたこともなかった、美桜がね……」

「ちょっと待って?」

胸を押さえて、息を整えるユウさん。

「ジンさん、喋っちゃった? 

 今の私のお仕事、とか」

いや、と。にこにこしながら首を振るジンさん。

「会って、自分で聞いてごらんって。

 そう、言ったんだよ」

ユウさんは息をのんで。

 

 

 

「会って! 

 美桜に会うの? 

 ほんとに会っていいの?」

ユウさんとお兄ちゃんは同じ年。

36歳、男性……とは思えない、はしゃぎっぷり。

ずっと一途に恋をして、色褪せない想い。

それはきっと。美桜さんだけで。

そっくりな顔立ちの、姉の美羽さんには抱かない感情、だと思う。

「前にも言ったけれど。

 覚悟が決まったら、【ジュリアン】のママは辞めてもいい。

 今まで、ユウはよくやってくれたから」

しんみりした口調でねぎらうジンさんに、涙腺が緩くなる。

 

 

 

「今回は、僕のイメージにやっと符合しそうなんだよ」

ぼそりと呟くジンさんに、ぴくんと反応して。

またまた~、と。

泣き笑いのユウさん。

「ごめんね、こっちの話で。

 ずっと前から、ユウと美桜が一緒にいる姿が見えてたんだ。

 でも、美桜ときたら。

 ユウを身内としか捉えていないし、電撃結婚しちゃうしね……

 ユウが自暴自棄になるたびに、そういうイメージが見えることは伝えていたんだけれど。

 なにしろ、朧げ(おぼろげ)で。

 時期も、わからないし。

 麻衣ちゃんと榊さんのイメージは、はっきりくっきり見えるのに、ね」

ユウさんには悪いけれど、嬉しくてにまにましちゃう。

 

 

 

そうよ、と。唇をとがらせて。

『ユウと美桜が一緒にいるのが見える』なんてジンさんが言うから、未練がましくもなるし。

 退路なんて、断てるわけないでしょ?

 美桜と一緒に歩めるなら、ずっと待てる」

決意の強い光が宿る瞳。

愛する人がいると、強くなれる。

生きよう、と思える。

生きよう……、と。

お兄ちゃんも、そう思えるかもしれない。

で? と。

ユウさんは薔薇色の頬のまま、にっこり笑って。

「双子が、な~に?」

あ。そう、でした。

 

 

 

KISSの法則・恋愛遺伝子と双子

 

「ユウさんは、美桜さんをずぅっと好きだったんですよね。

 でも、う~ん……だったら。

 双子の美羽さんに対しては、どうだったのかなって」

美羽? と。怪訝そうに訊くユウさん。

「あんなにそっくりなのに、美羽に心が動かなかったのか、って意味だよ」

ジンさんが的確な補足を入れてくれる。

「美羽に、対して?

 別に……そうね。

 身内だし。美桜の家族は、自分の家族なの。

 それ以上でも、それ以下でもなくて」

僕も家族かい? と、ジンさんが訊く。

「ジンさんは、怖~い親戚のおじさん。

怒鳴らないけど、説教が長いのよ。

たまに、すごく親身になってくれて、泣けちゃうけど」

 

 

 

「そうね。確かに。

 言われてみれば姿かたちは、似てるのよ。

 性格だって二人とも穏やかだし。

 しいて言えば……

 美桜は、無邪気な小悪魔タイプ。

 美羽は、冷静で包み込むタイプ。

 う~ん……」

ユウさんはこちらが申し訳ないほど、考えてくれて。

「うまく説明できないけど、最初から美桜しか心に映ってなくて。

 美羽だけじゃなくて、ほかの誰にも一度も揺らいだことはないの。

 当の美桜は気づきもしないで、自分の人生を歩いて行っちゃったけど。

 ……どうして?」

 

 

 

KISSの法則・明るい未来

 

「オレが双子なんです」

榊課長が口を開く。

「オレの器が小さくて、麻衣を弟に会わせるのを躊躇してしまって。

 麻衣にとっては、初めての恋だから……。

 見た目じゃないのはわかってるけど。

 それでも、そっくりな人間が現れたらどうなるのかって」

不安? ジンさんが訊く。

ええ、まぁ、と。

言葉を濁す、榊課長。

「榊さんの弟さんは、クセのある人のようだからね。

 まぁ、不安に思わざるを得ない過去もあるようだしね」

あう。その通り、です。

こくこく頷く。

でもね、と。ジンさんは明るい声で。

「きっと、そっちは大丈夫だよ。

 それは何の壁にもならない。

 いわば暖簾みたいなもんさ。

 中が見えないから、くぐるのに躊躇うけど。

 ちょっと腕で払って、足を踏み入れれば、すんなり解決するよ」

 

 

 

「それよりも、ね」

ジンさんは眉間に深いしわを刻んで。

「問題は伊織さんだ。

 こっちの壁は、高くて厚い」

お兄ちゃんの名前を出した途端、沈痛な面持ち。

ジンさんをもってしても、険しくそそり立つ壁で。

ジンさんに難攻不落っていわれたら、もう望みはないんじゃないかと思うほど。

私の、たった一人のお兄ちゃんなのに。

こんな他力本願じゃいけない。

 

 

 

「そうだ、ユウ」

ジンさんは、思いついたように明るい声を出して。

「近いうちに、伊織さんと一緒にここにおいで。

 素知らぬ顔で一度会ってみたいから」

うん、わかった、と。

嬉しそうに返事をするユウさん。

――お兄ちゃん。

たくさんの人がお兄ちゃんのことを考えてるんだよ。

ひとりで抱えて、暗い方へ行かないで。

ねぇ。お兄ちゃん――

「麻衣ちゃん、心配しないで。

 高い壁の方が制覇しがいがあるってものさ。

 今夜から策を練って、早速動くよ」

よろしくお願いします、と。

深くお辞儀をして。

ジンさんに別れを告げた。

 

 

www.cmoa.jp