のべりんちゅ.

坂井美月と申します♪ よろしくお願いいたします♡

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第32話 豪快ショッピング

 

「運転は荒くないけど、口調がモロおっさんになるの」
美しいユウさんに絶句。

 

 

【ヒミツの時間】 KISSの法則 第32話 豪快ショッピング

 

KISSの法則・投げちゃうライン

 

土曜日、10時ちょっと前。

チャイムの音に、いそいそと榊課長をお出迎え。

今日の榊課長もカッコいい。

濃いグレーのブレザーに、ジーンズ。

インナーは白のTシャツ。

鎖骨も程よく隠れてるし、OK。

でも残念、今日はメガネを掛けてない。

「メガネは?」って訊いたら。

「今日はコンタクト。

 邪魔だろ? 麻衣から……してもらうときに」

ごにょごにょ言って、にやり。

だから。しませんってば。

それでも。

お休みに会えた嬉しさに、思わず死角ゾーンでむぎゅっと抱きつく。

「おわっ!」って驚いてくれたことに大満足。

昨日公園で話すまでは、あんなに不安だったのに。

もうすっかり、大船に乗った気分で。

 

 

 

「麻衣の基準がわからない。

 自分からキスしたくせに、猫みたいにすーぐ、つんつんして。

 そうかと思えば。

 じゃれまわる仔犬かっつーほど、ぐいぐいハグして来るし」

おさるさんと、猫と、仔犬……

私、人間。しかも女子なんですけど。

しゅんとする私の頭を優しく撫でて。

「そのままでいいって、言っただろ?

 ま、今日はターニングポイントだから、あんまり煽んな。

 注意事項は以上。

 で。……伊織さんは?」

反省。ちょっと、はしゃぎすぎちゃった。

「リビングで、ユウさんとお茶を飲んでます」

「出遅れたか」

私の報告に榊課長は渋い顔。

 

 

 

「ユウさんね、車で送ってもらって9時にお見えになったの。

 10時にもう一度、車が迎えに来てくれるって」

「今日のショッピングって、運転手付き?」

榊課長の言葉に、頷く。

「二人で今日の内容を打ち合わせしてる感じ、か?」

ううん、と。首を振る。

「にこにこ笑って、まったりお茶を飲んでるだけ。

 私のコドモっぽさをからかって」

ユウさんにワードローブを見せたら……

「あら……」って、絶句された。

絶句の意味はわかってたけど、優しいユウさんは敢えてそこには触れずに。

お兄ちゃんに予算を聞いて。

「わ、いっぱい買えそう、嬉しいわぁ」って。

 

 

 

「この間会ったときのユウさんって、パーティードレスのすごい美女だったの。

 だけど、今日は普通の女の人の格好で。

 そしたら。

 お兄ちゃんが『麻衣のヤキモチ除けですよ』って」

「ヤキモチ妬くのか?」

榊課長が嬉しそうに聞くから。

うん、って大きく頷いた。

「でも、ちょっと微妙かな? 

 ユウさんの心は、オトコの人。

 外見は、すごく綺麗なオンナの人、だもんね」

あごに指を添えて、うーんと悩む私に、笑いをもらした榊課長。

「じゃさ。

 ユウさんに抱きつかれたら、投げ飛ばす?」

え? あ、そうだよね。そこは疑問。

「興味本位でも、ユウさんのこと面白がってるわけでもないんだぞ。

 麻衣の基準が謎、なんだよ」

 

 

 

「投げた時って咄嗟で、覚えてないんだけど。

 下心、とか。

 その。そういう邪(よこしま)な雰囲気に、拒否反応が出るみたいなの。

 先週、高橋課長の手を捻り上げちゃったときは、拒否反応じゃなくて。

 止めなくちゃって、必死で。

 そういう、意味があってのことだったし」

まとまりのない答えに、うんと相槌を打つ榊課長。

「だから。

 オンナの人の姿で、ユウさんが親愛の情をこめてハグしてくれた場合は……

 拒否反応は起きないはず。

 だけど、オトコの人の姿だったら、どうかなぁ?」

正直、わからない。

「さすがにオトコの格好はしないんじゃないの?

 心がオトコなだけに、余計ややこしくなるだろ。

 接客業っていう職業柄、イメージだって大切にしなきゃならないだろうし」

そういうもの、なの? 

でも……

 

 

 

KISSの法則・ユウさん

 

「今日は完全なプライベートだから、オトコの人の格好で来るつもりだったそうです。

 でも『女の子のお洋服を買いに行くのに、それじゃおかしいでしょ? だから思い直したの』って、おっしゃってました」

「へぇ、そうなんだ」

二人で喋りながら扉を開けたら、ホールでユウさんがお出迎え。

「初めまして。ユウと申します」

先制の、奇襲攻撃。

前回、ここで繰り広げられたマナー対決を思い浮かべて、身震いする。

「あ、初めまして。榊です。

 今日はお忙しいところ、申し訳ありません」

さらっと返す榊課長。

そして。

ユウさんの後ろから、お兄ちゃん登場。

「お久しぶりですね、榊さん。

 どうぞ、お上がりください」

前回とは打って変わった和やかな雰囲気に、そっと安堵の息をもらした。

 

 

 

紅茶をお出ししてソファに座ったとたん、榊課長はお兄ちゃんに深々とお辞儀。

「麻衣さんを会社に送っていただいたこと、感謝してます。

 ありがとうございました。

 あれで、本当に助かりました」

「あらあら、イオってば、さすがねぇ」

冷やかすユウさん。

「ユウ。

 あれは、あなたが考えたんでしょう?」

ため息まじりにユウさんを諌めるお兄ちゃん。

 

 

 

「そうだったかしら? 

 もう、自分の功績にしちゃえばいいじゃない。

 真面目なんだから」

肩をすくめる、お兄ちゃん。

からから笑う、ユウさん。

なんだか、すごく息が合っている。

こうやって。

闇に苦しむお兄ちゃんを、ユウさんはそばでずっと支え続けて……。

こんなふうに明るく、笑い飛ばしてきたんだ。

恋人のフリをしながら、真の友人として。

 

 

 

「そろそろ出かけましょうか?」

ユウさんのひとことで、和やかな雰囲気にぴりりと緊張が走る。

「麻衣。

 ちゃんと、榊さんとユウの言うことを聞いて。

 くれぐれも、迷子アナウンスのお世話になることのないように。

 泣かないで、携帯電話で連絡を取るんですよ」

むぅぅ。失礼すぎっ、お兄ちゃん。

吹き出す榊課長と、大きく頷くユウさん。

もぉ……ユウさんまで。

緊張感はほわっとほどけたけれど、その手段に私をからかうところが、イヤ。

 

 

 

KISSの法則・運転と本性

 

迎えに来てくれた車は、予想外のハイブリッドカー

そして運転手さんは、女性の方で。

勝手に、黒いぴかぴかのセダン、白い手袋の運転手さんを想像していた。

イメージが先行しすぎで、はずかしい。

「あ、最初に言っとくけど。

 運転してくれるのは本物の女性よ。お店のコじゃないの。

 麻衣ちゃんには、あらかじめ言っとかないとまずいもんね。

 ほら、絶対話がかみ合わなくなって。

 気まず~い雰囲気になりそうだから」

あ。はい。

たいてい、そういう状況に陥るタイプです。

お気遣い、痛み入ります。

あまりにズバリで、はずかしすぎて言葉にならない。

あは、と笑って、曖昧にお辞儀。

 

 

 

「普段は自分で運転するんだけど。

 今日は、イオに止められたの」

助手席に座ったユウさんは、振り向いて不満そうに口をとがらせる。

「どうしてですか?」と首をかしげたら。

「運転は荒くないんだけど、口調がモロおっさんになるから。

 『榊さんはおそらく爆笑するでしょうし。

 麻衣は無口になりますから、お話なんてできませんよ』ってイオは言うの」

お兄ちゃんの声色を真似る、ユウさん。

確かに、乱暴な口調は苦手。

ぴきんと、固まっちゃう。

隣で、榊課長は肩をふるわせて。

「最初は我慢してこらえるけど。

 伊織さんの分析通り、爆笑するだろうな」

 

 

 

向かう先はデパート。

ユウさん行きつけのショップのテイストと、私のイメージにはギャップがあるから、みたい。

車の中で、ユウさんは榊課長の好みもさりげなく訊いてくれた。

“スカートの方がいいけど、露出はNG”っていうのが条件で。

後は。

「麻衣に似合ってればいい、

 麻衣に任せる、

 麻衣が好きなの選べ」しか言ってくれない。

「それじゃわからない」と拗ねたら。

「着るもので、麻衣への想いが揺らぐとでも思ってるわけ?

 服なんてどうだっていいんだよ。

 大切なのは中身だろ」

手をきゅっと握られた。

 

 

 

「んま。大胆発言ね」

ユウさんの言葉にぴくりと反応した、榊課長。

「あ、いや……

 そういう意味じゃ、なくてっ」

声を上げて、急に慌てふためく。

どうしちゃったの?

ゆっくり会話を反芻して。

意味がおぼろげにわかって、熱い頬を押さえた。

「イオから聞いたのよ、その辺の事情は。

 イオは自分があんなだから、わかってないのよね。

 想い合ってるのにセーブするっていう、つらさが。

 麻衣ちゃんも、おっとり、のんびりさんだから。

 全然イオに反抗しないし。

 ……榊さん、お気持ちお察しいたしますわ」

「はあ、どうも」

視線を泳がせる榊課長。

 

 

 

KISSの法則・傾向と対策

 

デパートに到着。

榊課長をお買い物に付き合わせるのは忍びなくて、別行動を提案したんだけど。

「なんでだよ」

榊課長は、むくれて。

「だめよ、麻衣ちゃん」

ユウさんには、たしなめられた。

「フィッティングルームで着替えたら、似合うかどうか、カレに訊くものなの。

 その反応で、どんなテイストが好みかわかるでしょ?」

こっそり囁くユウさんに、なるほど、と頷く。

「それとね。ワードローブの中身だけど。

 確かに、似たようなワンピースがちょこちょこっと並んでたわね。

 オトコの人って膝丈ワンピに弱いものなのよ」

そうなんですか? と見上げたら。

「麻衣ちゃんも、ワンピが好きなのよね。

 そして、何より似合ってるもの。

 だから、ワンピースでいいと思うのよ。バリエーションで勝負しましょ」

 

 

 

傾向と対策が決まって、ほっとしてるのに。

ユウさんの怒涛のペースに息切れ。

ショップに入るとワンピコーナーへ突進。

すごい速さで何着か手に取って、フィッティングルームへ。

店員さんに、声を掛ける隙を与えないほど。

着替えたら、榊課長を呼んで。

私を見つめる榊課長の表情を、じっと観察するユウさん。

そこで判断を下してるみたい。

購入の決定権は、ユウさんに委ねられていて。

「いただくわ」「結構よ」が飛び交う。

そうやってショップを6つ回ったところでお買い物は終了。

両手を紙袋にふさがれた榊課長の姿に、改めてびっくり。

時間はまだお昼前。すごい決断力。

私だったら一着買えてるかどうかなのに。

 

 

 

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